この記事は「投資を学ぶ」シリーズの一つです。長期・積立・分散の基本をまだ確認していない方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
配当金が定期的に入る投資は、将来の生活を少し楽にしてくれそうに感じます。実際に、受け取った金額が目に見えることは、投資を続ける励みになります。ただし、利回りが高いという理由だけで選ぶと、配当が減る、株価が下がる、その両方が同時に起きる、といった形でリスクを抱えることがあります。
この記事では、特定の銘柄を勧めるのではなく、配当を見るときに確認したい基本を整理します。個別の企業をどう読むかという話は、この記事の範囲外です。
配当利回りは「今の配当 ÷ 今の株価」で決まる
日本取引所グループの用語集では、配当利回り(株式利回り)は「ある時点で株式へ投資した場合の投資資金と、それが1年間に生むと期待される配当金との比率を示すもの」と説明されています。式にすると、1株あたりの年間配当金 ÷ 株価です。
ここで大切なのは、分母が「今の株価」だということです。配当金が1円も変わらなくても、株価が下がれば利回りは上がります。下の表は、年間配当が100円の株について、株価だけが動いた場合の単純計算です。
| 株価 | 年間配当 | 配当利回り |
| 2,500円 | 100円 | 4.0% |
| 2,000円 | 100円 | 5.0% |
| 1,500円 | 100円 | 約6.7% |
| 1,000円 | 100円 | 10.0% |
利回りが上がったこの表の動きは、会社が株主への還元を増やしたからではありません。株価が下がっただけです。高い利回りは「お得」のサインであることもあれば、市場がその会社の業績や将来を不安視しているサインであることもあります。数字を比べる前に、なぜその数字になっているのかを確認しましょう。
利回りが高く見える五つの理由
配当利回りのランキング上位に並ぶ銘柄は、同じ理由で高いわけではありません。配当太郎『年間100万円の配当金が入ってくる最高の株式投資』では、高い利回りの背景として次のような場合が挙げられています。
- 事業の利益で無理なく払えている(続く可能性が比較的高い)
- 記念配当や特別配当など、その年だけの上乗せが含まれている
- 業績や見通しの悪化で株価が下がり、結果として利回りが上がっている
- 利益に対して配当を出しすぎている(次で説明する配当性向が高い)
- 市場が将来の減配をすでに織り込んでいる
上の三つ目と五つ目は、株価の下落と減配が続けて起きる可能性を含みます。利回りの数字だけを並べたランキングからは、この違いが見えません。
配当の元になるのは利益:EPSと配当性向
配当は、事業が生み出した利益から支払われます。そこで、配当そのものより先に、1株あたりの利益を見ます。
| 指標 | 計算式 | 何を見るための数字か |
| 1株当たり利益(EPS) | 当期純利益 ÷ 発行済株式数 | 1株にどれだけの利益が対応しているか |
| 配当性向 | 1株当たり年間配当 ÷ EPS × 100 | 利益のうちどれだけを配当に回しているか |
| 配当利回り | 1株当たり年間配当 ÷ 株価 × 100 | 今の株価に対して配当がどれだけか |
EPSが長く安定している、あるいは少しずつ増えているなら、配当の元になる部分が確保できていると考えやすくなります。反対にEPSが大きく上下している場合は、その理由を確認したいところです。会社の決算資料をさかのぼって、景気が悪かった時期に利益と配当がどう動いたかを見ると、平常時だけを見た判断を避けやすくなります。
配当性向が高すぎるとき、低すぎるとき
配当性向が100%を超えている場合、その年の利益より多い金額を配当に回していることになります。過去に蓄えた利益があれば数年は続けられますが、利益が少し減っただけで、配当を維持する余裕は小さくなります。
一方で、配当性向が低いことが悪いとも限りません。川北英隆『個別株の教科書』は、日本で配当性向30%前後という水準が目安として広く使われることを取り上げ、この数字を機械的に当てはめる考え方に疑問を示しています。利益を再投資して事業を伸ばせる会社なら、配当に回さないほうが株主にとって合理的な場合もあります。反対に、有望な投資先を持たない会社が利益を抱え込み続けるなら、その理由を説明できるかが問われます。
数字の高い低いだけで良し悪しを決めず、その会社がなぜその水準にしているのかを確認する材料の一つとして使いましょう。
「今の利回り」と「取得利回り」は別の数字
同じ株でも、いつ買ったかによって、自分にとっての利回りは変わります。配当太郎の本にある例が分かりやすいので、数字を追ってみます。
| 状況 | 株価 | 年間配当 | 今の株価に対する利回り | 1,000円で買った人の取得利回り |
| 購入時 | 1,000円 | 100円 | 10% | 10% |
| 株価が上がった | 2,000円 | 100円 | 5% | 10% |
| さらに増配された | 2,000円 | 200円 | 10% | 20% |
取得利回りは、自分が払った金額に対して今いくら受け取れているかを示す数字です。長く持って増配が続けば大きくなりますが、これは過去に払った金額を基準にした見方だという点に注意が必要です。今その株を持ち続ける判断は、今の株価と今の配当で考えることになります。買い増しをした場合は、平均取得単価で計算し直します。
関連して、受け取った配当の累計が購入代金に追いついた状態を「恩株」と呼ぶことがあります。気持ちのうえでは元手を回収したことになりますが、その株は今も時価で値動きしています。過去に受け取った配当は、今の資産が値下がりしない理由にはなりません。
利益が出ていても、現金がなければ配当は続かない
配当は現金で支払われます。会計上の利益と、手元に残る現金は同じではありません。森暁彦『絶対に忘れない[財務指標]の覚え方』は、利益が実際の現金に変わるまでに、設備投資、在庫や売掛金の増加、税金といった要素が入ることを指摘しています。利益が伸びているのに在庫や売掛金だけが増え続けているような場合は、その理由を確認したいところです。
借入についても、金額の大小だけでは判断できません。同じ本は、自己資本比率が30%を下回ると機械的に危険と決めつける読み方を退けています。安定した収入が見込める事業なら借入を多く使える一方、業績の振れ幅が大きい事業では同じ比率でも重くなります。大切なのは水準そのものより、その状態になった理由と、悪い年が来ても支払いを続けられるかどうかです。
もう一つ、毎年のように「特別損失」が計上されている会社は、その中身が本当に一時的なものか確認する価値があります。毎年出てくる費用は、実質的には通常の費用に近いためです。
決算のたびに見る四つの数字
「長く持つ」ことと「何も見ない」ことは違います。配当太郎の本では、四半期ごとに最低限、次の四つを確認するという方法が紹介されています。
- 売上高
- 営業利益
- 当期純利益
- 1株当たり利益(EPS)
この四つは、配当を維持できる力があるかどうかを見るための土台です。四半期に一度、数分で確認できる範囲を決めておくと、値動きのたびに調べ直すよりも続けやすくなります。
増配が続きそうかを、会社の資料で確認する
過去に増配してきたことは参考になりますが、将来も続く保証にはなりません。会社のIR(投資家向け情報)ページで確認できるのは、たとえば次のような点です。
- 配当の推移(減配や無配の時期があったか、その理由は何だったか)
- EPSの推移(配当の元になる利益が伴っているか)
- 配当性向(利益に対して無理のない水準か)
- 株主還元の方針(何を基準に配当を決めると説明しているか)
- 中期経営計画(その方針がいつまでのものか)
近年は「累進配当」、つまり原則として減配せず、維持または増配するという方針を示す会社もあります。見通しは立てやすくなりますが、これは会社が自ら掲げた方針であり、状況が変われば見直される可能性があります。ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』も、長期にわたって配当を払い続けた実績を企業の質を測る材料として扱う一方、利回りが魅力的だという理由だけで買うことは避けるべきだとしています。
配当落ち:権利日の直前に買えば得、ではない
配当を受け取る権利は、決められた日に株主であることで確定します。では、その直前に買えば得なのでしょうか。日本取引所グループの用語集は、次のように説明しています。
「配当が付与される場合の権利落を配当落といいます。権利確定日の1営業日前の日の売買から、配当落として売買が行われます。配当落日に株式を買っても配当を受領する権利を得ることができませんので、配当落日の株価は配当相当額分下落することとなります。」
つまり、権利が確定したあとの株価には、支払われる配当の分が反映されます。配当をもらった分だけ株価が下がりやすいということです。実際の値動きはそれ以外の要因でも動きますが、少なくとも「権利日の直前に買えば、その分だけ得をする」という考え方は成り立ちません。
税金と受け取り方を確認する
受け取れる金額は、税引き後で考える必要があります。国税庁の説明によれば、上場株式等の配当は原則として15.315%(他に地方税5%)の税率で源泉徴収されます。一定の条件を満たす場合の確定申告不要制度のほか、申告分離課税や総合課税を選ぶこともでき、総合課税を選んだ場合は配当控除の適用を受けられます。どれが有利かは所得や他の取引によって変わるため、金額が大きくなってきたら、国税庁の情報や税理士に確認しましょう。
NISA口座を使う場合には、もう一つ確認したい点があります。金融庁の資料「NISAを利用する皆さまへ」には、「NISA口座で買付けた株式の配当金を非課税にするには、受取方法を株式数比例配分方式にする必要があります」と明記されています。受取方法が銀行口座での受け取りや配当金領収証のままだと、NISA口座で買った株でも配当は課税されます。証券会社の設定画面で確認できるので、NISAで個別株やETFを持つ場合は、買う前に一度見ておくと安心です。同じ資料には「配当金は企業が得た利益を株主に分配するものであり、企業の判断によっては支払われない場合もあります」という注記も添えられています。NISAの仕組みそのものは新NISAの基本で整理しています。
銘柄数だけでは分散にならない
高い利回りの会社が見つかると、そこに資金を集めたくなります。しかし、一社で問題が起きたときの影響も大きくなります。しかも、日本で配当を重視して銘柄を選ぶと、銀行・保険・商社・通信といった業種に偏りやすいという特徴があります。数社に分けたつもりでも、同じ業種、同じ国、似た値動きに集中していれば、見た目ほど分散できていません。
勤め先の株を多く持っている場合も、給料と資産の両方が同じ会社の状況に左右されます。個別株を持つなら、投資全体の中でその会社が何%を占めているか、どの業種と国に偏っているかを、金額で確認しておきましょう。分散の考え方は長期・積立・分散の記事で詳しく整理しています。
配当を生活費の前提にしすぎない
配当は、企業の判断で減ったり、なくなったりします。生活費を配当だけでまかなう前提にすると、減配した年に家計が苦しくなります。しかも、減配が発表される時期は株価も下がっていることが多く、「配当が減ったので株を売って現金をつくる」という一番避けたい行動につながりやすくなります。
まずは生活防衛資金を確保し、配当は将来の選択肢を広げる一部として考えるほうが、落ち着いて続けられます。生活防衛資金の考え方はNISAの前に確認したいことにまとめています。
個別株と向き合う時間もコストになる
ここまで見てきたとおり、個別株の配当を見るには、決算、事業、借入、配当方針、税金の扱いなどを定期的に確認する必要があります。その時間を取れないなら、広く分散された商品を中心にする選択もあります。難しい方法を選ぶことが目的ではなく、自分が理解して続けられる方法を選ぶことが目的です。
個別の企業をどう読んでいるかという記録は、note.com「美人健康|とうしフレ」に分けて書いています。こちらは投資助言ではなく、事実・考え方・個人の見方を分けて残す学習ノートです。
よくある勘違い
「利回りが高いほど得」
利回りの分母は今の株価です。株価が下がっただけでも利回りは上がります。高い数字の理由を確認しないまま比べると、業績悪化や減配の可能性が高い会社ほど魅力的に見えてしまいます。
「連続増配なら安心」
長く増配してきた実績は、質を測る材料の一つになります。ただし、それは過去の実績です。累進配当のような方針も、会社が自ら掲げたもので、状況によって見直されます。
「配当をもらえていれば損はしていない」
投資の結果は、受け取った配当と株価の変動を合わせた総リターンで決まります。年3%の配当を受け取っても、株価が20%下がっていれば、その年の資産は減っています。配当だけを見ていると、この部分が見えなくなります。
「権利確定日の直前に買えば配当の分だけ得をする」
配当落ち日の株価は、配当相当額の分だけ下がることになります。権利日をねらった短期の売買は、税金と手数料の分だけ不利になることもあります。
「恩株になれば、あとはリスクがない」
受け取った配当の累計が購入代金を上回っても、その株は今の時価で値動きを続けます。回収済みという感覚は、今の資産が抱えているリスクを小さくしません。
まとめ
高配当株を見るときは、利回りの数字だけで判断せず、その数字ができた理由を確認しましょう。配当の元になる利益(EPS)、利益に対する配当の重さ(配当性向)、現金と借入の状態、配当の履歴と方針、そして投資全体の中での比率です。配当は魅力の一つですが、投資のリスクを消してくれるものではありません。
今日できることを一つだけ選ぶなら、次のどれかで十分です。気になっている銘柄の配当性向を計算してみる。NISA口座の配当金受取方法が株式数比例配分方式になっているか確認する。持っている個別株が投資全体の何%かを金額で書き出してみる。どれも数分で終わり、値動きに左右されない行動です。
数字と制度の詳細は、日本取引所グループの用語集と国税庁「配当金を受け取ったとき(配当所得)」で確認できます。
この記事は公的資料をもとにした一般的な情報であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。税率や制度は改正される場合があるため、実際の判断の前に国税庁や証券会社の最新の案内をご確認ください。税務上の取り扱いは個別の事情によって異なります。投資は元本保証ではなく、配当の継続も保証されません。

