外貨建て資産を持つ前に:為替の変動を家計と投資でどう考えるか

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この記事は「投資を学ぶ」シリーズの一つです。長期・積立・分散の基本はこちらの記事で説明しています。

輸入食品の値札、海外のサブスクの請求、久しぶりの海外旅行の見積もり。為替は、投資を始める前から私たちの家計に入り込んでいます。そこに海外の株式や投資信託を持つと、資産の側にも為替が効いてきます。

ただし、「円安なら得」「円高なら損」と単純には言い切れません。この記事では、外貨建ての資産で何が起きているのかを分解し、家計と投資計画が為替で壊れないようにするための確認点を整理します。どの通貨が上がるか下がるかという予想は扱いません。

外貨建て資産には、二つの値動きがある

アメリカの株式を10,000ドル分持っているとします。買ったときのレートが1ドル=150円なら、円に直すと150万円です。

ここで、株価はまったく動かず、為替だけが動いたとします。持っているのは同じ10,000ドルですが、円に直した金額は変わります。

為替レート 円換算の評価額 150万円からの増減
1ドル=140円(円高) 140万円 −10万円
1ドル=150円(買ったとき) 150万円 ±0円
1ドル=160円(円安) 160万円 +10万円

これが為替リスクです。資産そのものは何も変わっていないのに、円で見た金額だけが動きます。

実際には、株価と為替が同時に動きます。株価が10%下がって10,000ドルが9,000ドルになった場合を見てみましょう。

  • 1ドル=160円まで円安が進んでいたら、9,000ドル × 160円=144万円。150万円から−4%
  • 1ドル=140円まで円高が進んでいたら、9,000ドル × 140円=126万円。150万円から−16%

同じ「10%の値下がり」でも、円で見ると−4%にも−16%にもなります。反対に、株価が上がっているのに円換算では増えていない、ということも起こります。

手数料・税金は考慮していない単純計算です。特定の相場見通しを示すものではありません。

評価額が動いたときは、資産の価格が動いたのか、為替が動いたのか、両方なのかを分けて見てみましょう。それだけで、慌てて売る理由が減ることがあります。

円建ての商品でも、中身が外貨建てのことがある

ここでよくあるのが、「自分は円で買っているから為替は関係ない」という受け止めです。全世界株式や米国株の指数に連動する投資信託は、多くの場合、円で購入できますが、集めた資金は外貨に換えて海外の株式などに投資されます。そのため、円で表示される基準価額は、投資先の値動きと為替の両方を反映して動きます。

つまり、円で買えることと、為替の影響を受けないことは別です。自分が持っている商品が何に投資しているかは、目論見書や月次レポートで確認できます。新NISAの基本で選んだ商品も、この点は同じです。

「円の実力」を、一つのレートだけで判断しない

ニュースで目にするのは、たいてい「1ドル=◯円」というドル円のレートです。けれども、私たちが買っているものは、アメリカ以外の国からも来ています。

例えば、ドル円が1ドル=150円のまま動かなかったとします。その間にユーロ円だけが1ユーロ=160円から180円になったら、どうなるでしょうか。

  • ヨーロッパ産の20ユーロのオリーブオイル:160円のとき3,200円 → 180円のとき3,600円
  • ドル建てで100ドルの商品:どちらの時点でも15,000円のまま

ドル円のニュースだけを見ていると「為替は動いていない」ことになりますが、買い物の合計金額は上がっています。円の実力は、相手の通貨ごとに違う動き方をしているためです。

もう一つ、レートが同じでも金額が変わる場合があります。1ドル=150円で変わらなくても、現地のホテル代が100ドルから110ドルに値上がりしていれば、支払いは15,000円から16,500円になります。為替のせいではなく、相手国の物価が上がったためです。

日本銀行は、こうした点を捉える指標として実効為替レートを公表しています。名目実効為替レートは「特定の2通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられない、総合的な為替レートの変動をみるための指標」であり、「対象となる全ての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けして集計・算出」したものです。さらに、対象となる国・地域の物価動向も加味して算出したものが実質実効為替レートです。

先ほどの例で言えば、ユーロも含めてまとめて見るのが名目実効為替レート、現地の値上がり分まで含めて見るのが実質実効為替レートにあたります。海外に行ったときや輸入品を買ったときに「思ったより高い」と感じるのは、ドル円の数字だけでなく、物価の差も含んだ感覚に近いと言えます。ドル円が少し戻ったからといって、暮らしの実感がすぐ戻るとは限りません。相場の数字と生活の感覚がずれることは、それ自体は不思議なことではありません。

家計で使う通貨と、投資で持つ通貨を分ける

日本で生活している場合、日々の支出のほとんどは円です。近いうちに使う生活費や生活防衛資金まで外貨にしてしまうと、必要な時期の為替によっては、思ったより少ない円しか手元に残らないことがあります。当面使うお金は、使う通貨で持つ。これが出発点です。生活防衛資金の考え方はNISAの前に確認したいことにまとめています。

一方、長期の投資では、海外の資産を含めることで、資産が日本の状況だけに左右されることを避けやすくなります。どちらが正しいかではなく、短期に必要なお金と、長く待てるお金を分けることが先です。

為替ヘッジ「あり」と「なし」の違い

同じ指数に連動する投資信託でも、商品名の後ろに「(為替ヘッジあり)」と付いているものと、「(為替ヘッジなし)」または何も付いていないものがあります。名前が似ているので同じ商品に見えますが、円で見たときの値動きは別物になります。

為替ヘッジとは何をしているのか

ヘッジありの商品は、将来外貨を円に戻すときのレートを、あらかじめ決めておく取引をあわせて行います。先に交換レートを固定してしまうため、その後に円高・円安が進んでも、円換算の金額が受ける影響は小さくなります。

記事の前半の例で言えば、株価が10%下がったときの結果を、為替に左右されずおよそ−10%に近づけようとする仕組みです。値下がりそのものを防ぐ仕組みではありません。

ヘッジには費用がかかる

この「レートを先に決めておく」取引は無料ではありません。日本証券業協会の解説では、為替取引で生じるプレミアムとコストは短期金利の差から生まれると説明されています。選択した通貨の短期金利が投資対象資産の通貨の短期金利より高い場合は「為替取引によるプレミアム(金利差相当分の収益)」が期待でき、逆に選択した通貨の短期金利のほうが低い場合には「為替取引によるコスト(金利差相当分の費用)」が生じる、という関係です。

日本の短期金利が海外より低い状態では、円に戻すヘッジは費用のほうになります。仮に円の短期金利が0.5%、投資先の通貨の短期金利が4.5%だとすると、その差の4%程度が年あたりの費用の目安になる、というイメージです(数値は説明のための仮定で、実際の費用は商品や時期によって変わります)。運用がうまくいっても、この分は差し引かれます。

円高のとき・円安のときにどうなるか

ヘッジあり ヘッジなし
円安が進んだとき 円安による上乗せは受けにくい 円換算の評価額が増えやすい
円高が進んだとき 円高による目減りを抑えやすい 円換算の評価額が減りやすい
費用 金利差に応じた費用がかかる この費用はかからない
投資先の値下がり そのまま影響を受ける そのまま影響を受ける

一番下の行が大切なところです。ヘッジが打ち消そうとしているのは為替の変動だけで、株式や債券そのものの値下がりは残ります。

どちらを選ぶか

どちらが良いかは、目的と保有期間によって変わります。数年以内に円で使う予定があるお金なら、為替で金額がぶれない方を選ぶ理由があります。老後まで20年以上持ち続けるつもりなら、毎年の費用の積み重ねをどう見るかという判断になります。

注意したいのは、金利差は時期によって変わるということです。「今はヘッジありが不利」という状況も、数年後には変わっている可能性があります。また、日本証券業協会の解説では、新興国通貨などの場合には短期金利差がそのままプレミアムやコストに反映されないこともあると説明されています。

買う前に、目論見書でヘッジの有無と費用の説明を確認しましょう。すでに持っている商品なら、正式名称に「為替ヘッジ」の記載があるかを見るだけでも確認になります。

積立で買うと、為替も時期が分かれる

毎月同じ金額を積み立てている場合、購入するタイミングは自然と分かれます。これは商品の価格だけでなく、為替についても同じです。円安の月も円高の月も含めて買うことになるため、一度にまとめて換えるより、特定の時期のレートに結果が左右されにくくなります。

ただし、これは有利になる方法ではありません。円安が続く局面では早く買ったほうが結果が良かった、ということも起こります。積立の利点は、為替の予想をしなくても続けられることにあります。この考え方は長期・積立・分散の記事で詳しく整理しています。

コストと税金を確認する

円と外貨を行き来するときには、見えにくいコストがあります。銀行や証券会社のレート一覧を開くと、円から外貨に換えるときのレートと、外貨から円に戻すときのレートが別々に書かれています。その差が、往復にかかる実質的な手数料です。海外の株式やETFを買うときも、円のまま決済する方法と、自分で外貨に換えてから買う方法があり、手数料の考え方が変わります。金額が小さいうちほど、この差は無視できません。

税金の扱いも確認しておきたいところです。国税庁の説明によれば、居住者が外貨建取引を行った場合、その取引時の為替相場で円換算した金額をもとに各種所得の金額を計算します(所得税法第57条の3)。一方で、同じ外国通貨のまま預け替えるようなケースでは、為替差損益を認識しないとされています(所得税法施行令第167条の6第2項)。つまり、外貨を持っているだけで課税されるわけではなく、どのような取引をしたかで扱いが変わります。

また、給与所得者については、給与所得・退職所得以外の各種所得金額の合計額が20万円を超える場合に確定申告が必要とされています(勤務先が1か所で年末調整を受けている場合など、条件があります)。為替差益だけでなく、副業などの所得も合わせた合計額で考える点に注意しましょう。金額が大きくなってきたら、国税庁の情報や税理士に確認するのが確実です。

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